Stellaris」の開発日記#206が公開されていましたので、その内容をご紹介。今回は「Nemesis」のディレクションについて。3.0「ディック」リリース前の開発日記です。
前回:開発日記#205――3.0「ディック」アップデートのアナウンス
開発日記
開発日記#206は、「Nemesis」のディレクションについて。
- 今日は「Nemesis」のような拡張のディレクションの過程について述べる。これまでにもお話してきたように、強力なテーマを見つけることは私たちのやることの中でも特に重要だ。
- アイディア出しをするときはいつもアイディアを「箱」にカテゴライズする。拡張はそれぞれさまざまな「箱」から内容を選び出している。「Utopia」は内政とカスタマイズ、「Apocalypse」は戦争、「Megacorp」は経済、「Federations」は外交についてのものだ。
- 箱の中にはひとつの拡張で収まりきらないほどのアイディアが入っているのが普通なので、過去の拡張向けに出したアイディアの多くは新しい拡張に持ち越される。例えば、「外交の箱」には実装したい優れたアイディアがあまりにも多く入っていたので、「Federations」では「善」の外交、「Nemesis」では「悪」の外交に注力することにした。
- 拡張に対して強力なテーマを維持するのは非常に重要だ。というのは、プレイヤーが大きな空想を練り上げ、そのアイディアに対する興奮を高めやすくするからだ。また、テーマを絞った拡張では複数の機能が関連し合うことが多く、プレイヤーの多くが評価するようなより深い相互作用をゲーム内で実現できる。
- DLCに対して強力なテーマを維持するのは重要だが、私たちはどの拡張でもさまざまなプレイヤーに対応できる内容にしたいとも思っている。例えば、「Federations」が協力や外交に重点を置いているなら、ジャガーノートを追加してゲームの好戦的な側面を楽しむプレイヤーにも新しいおもちゃを提供するのはいいアイディアだ。
Nemesis
- 危機になる、銀河帝国を作るというのはいずれも外交に関連したアイディアだ。銀河コミュニティにおいてプレイヤーが銀河を破壊しようとする「悪役」を演じることができるようになり、さらにそのような脅威に対抗することを目的とした機能を追加するのは大きな意味がある。
- 「Federations」は協力関係や友好的な外交に重点を置いていたのに対し、「Nemesis」は対立する勢力間の争いを盛り上げることを目標とした。危機がいかに銀河を危機に陥れるかを強調し、そしてそれを止めようとするチャンピオン(守護者)が出現し得るようにしたいと思った。
- また、パワーバランスが変化する機会を増やしたかったので、守護者のアイディアと権力がどのように腐敗するかというアイディアを推進した。守護者が銀河コミュニティを銀河帝国にできるようにすることで、銀河系で起こり得る危機の種類を増やすことができた。
諜報
- 諜報システムはデザイナーとしての私の目標でもあったため、ずっと前から作りたいと思っていた。諜報システムがあまりにも決定論的であったり、ただ座って進捗バーを見ているだけで成功か失敗かどちらかになってしまうのは好きではない。
- 私は諜報システムにもっとストーリー性を持たせたいと思っており、「Ancient Relics」向けにデザインした発掘調査システムがこれを可能にした。ゲームディレクターとして私はゲーム制作のみならず、その範囲(機能をどれだけ大きくできるか、どこに開発時間を費やすか)にも責任を負っている。発掘調査システムをベースとすることで開発期間を短縮し、別の部分に費やすほうがよいということはわかっていた。
- UIの実装はStellarisが使っている技術では長い時間がかかるため、一からUIを作らないことで時間を節約できるのはいいアイディアだと思った。また、パーツを再利用することで、私たちはそのシステムや機能に期待すべきことをよくわかっているためにリスクを低減できる。浮いた時間は他の機能の改良やバグの修正、新たな素晴らしいUIの実装に充てることができる。
- 諜報システムが達成すべきことは情報収集が大部分を占めるようにしたかった。諜報システムはあまりに予測できすぎて退屈であると感じられ、またプレイヤーは常に諜報活動の対象になる場合を考慮しなければならず、満足のいくものになりにくい。
- また、新たなシステムを追加する際にはプレイヤーが既存のシステムの操作に多くのキャパシティを割いているという点を考慮しなければならない。私たちはプレイヤーが新たなシステムを使うことにしたときに楽しく魅力的なシステムを作る必要があるし、プレイヤーが操作を強いられるような新システムの追加は非常にリスクが高いことをわかっていなければならない。認知的な負荷はグランドストラテジーゲームのデザインでは厄介な問題だ。
- この諜報システムはゲームをプレイする上で必須ではないものの、使いたいと思ったときに楽しく興味深いという意味でいいところを突けていると思っている。私が夢見ていたことをすべて実現することはできなかったし、システムではもっと相互作用的な防諜活動をやりたかったが、全体的な諜報の仕上がりには非常に満足している。
- 諜報の基本システムは発掘調査システムと同じようにベースゲームの無料アップデートに含まれる。
情報値(Intel)
- 情報収集は諜報システムの重要な要素であるため、新たな情報値システムがプレイヤーの優れた体験にとって不可欠だと考えた。私は他の異星人の帝国と接触を持った途端にその帝国について多くの情報が出てくるのが好きではなかった。
- 情報値システムのポイントは、新たな切り口の「探検」に着目して序盤から中盤を盛り上げることにある。プレイヤーが戦争好きだったり外交的だったりしないとしても、銀河とその住人についてもっと知ることは楽しいはずだ。
- 情報値システムはすべてのものに関連するため、無料アップデートの内容である必要があった。
- システムの範囲という観点では、新たなシステムと既存システムの関わりにおける特殊なケースや細かな点により、情報値システムは当初考えていたよりも高価なものになった。Stellarisのような大規模なゲームでは、情報を隠すためにUIを変更するのはそれほど簡単ではない。
- ゲームディレクターとしては開発時間をどこに費やすかを考える必要がある。情報値システムのような無料の内容に時間をかけすぎるとDLCの内容が薄くなってプレイヤーに価値が低いと思われてしまうかもしれない。無料アップデートで充分な新機能を追加するのとDLCで新機能を追加するのはどちらも異なる理由で重要なので、慎重にバランスを取っている。だが、現在の情報値システムを作るのに時間を使っただけの価値はあると思っている。
危機になる
- プレイヤーが危機になるというアイディアはかなり前から私たちの中にあった。危機になる機能の目標はプレイヤーが「悪い」ことをできるようにし、銀河の支配に向けてより強力な報酬をアンロックすることだった。
- このシステムは何度か実装し直され、「危機レベル」という明確な進行度が追加されてはっきりした課題として感じられるようになった。グランドストラテジーゲームの内在的な弱点は、プレイヤーに直接提示される明示的な課題があまりないために、新たなプレイヤーがなにをすればいいのかわからないことだ。あなたがゲームのまったくの初心者なら、プレイヤー自身が考えるべき黙示的な課題を見つけるのは難しいだろう。
- HoI4の国家方針、EU4やImperatorのミッションは私たちのゲームに明示的な課題を追加するのに成功した例だ。黙示的な課題はリプレイ性と相性がよく、プレイヤーがその唯一の理由であるため、プレイヤーにとって強力な体験となる。
- 危機になる機能ではプレイヤーがより威嚇的になり、銀河に対する脅威が増すようにするための目標が追加されている。クエストやミッションのような直接的なものではないが、プレイヤーを動機づける助けになるはずだ。
- もともとは危機になる機能にも複数の形(ゲーム終盤の危機のような破壊的な勢力から、マローダーのような征服するような勢力、陰から食い物にするような操作的な勢力)を持たせるアイディアがあったが、時間的な制約からひとつのファンタジーをより強力で魅力的なものにするか、水増し感のある複数バージョンにするかの選択を迫られた。
- 危機になる機能には非常に満足している。みなさんもStar-Eatersを配置して銀河を消費していくのを楽しんでもらいたい。
守護者と銀河帝国
- 危機に立ち向かうために守護者を選任し、その守護者が権力を握って新たな外交的危機になるというサイクルは非常にテーマ性があり、大衆文化(そしてある程度の歴史)からも非常に意識されているファンタジーだ。
- この2つの機能についてはシニアコンテンツデザイナーの一人が大部分を担当したため、私はそれほど多くの知見を持っていない。銀河帝国のアイディアと大まかなデザインは銀河コミュニティに関連して生まれたもので、「Nemesis」でゲームに追加する機会を得て非常にうれしく思っている。
質疑応答
Q1:前に投稿してたロードマップは今も続いていると思っていいの? そうじゃなかった場合はロードマップ見直し回がある?
A1:「Nemesis」リリース後にロードマップの概要とアップデートについて述べることになるだろうが、リリース後しばらくするまで議論の焦点を移すのはよくないだろう。
2021年4月1日追記:開発日記#207はエイプリルフール回となっています。記事にしてご紹介はしませんので、気になる方は直接スレッドをご覧ください。新たな起源「Surviving the Aftermath」「Crusader King」「Prison Architect」「This is Fine(英語圏のネットミームのようです)」「AI Custodianship」について紹介されています。
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