1980年以降の世界でソフトウェア開発会社を経営する経営シミュレーションゲーム「Software Inc.」のレビュー記事。Microsoftや任天堂、はたまたValve(Steamの運営会社)にもなれます。
ゲームの概要
- ジャンル:ソフトウェア開発会社経営シミュレーション
- リリース日(早期アクセス開始日):2015年5月1日
- 開発元:Coredumping
- Steamで購入可能(2,576円)
- 日本語でのプレイ:Mod導入で可能
- 記事執筆時点での最新バージョン:Beta 1.8.3(早期アクセス中)
1980年以降の世界でソフトウェア開発会社を経営する経営シミュレーションゲームです。Microsoftのようにオペレーティングシステムを開発したり、任天堂のように家庭用ゲーム機やそのソフトを開発したり、あるいはSteamを開発・運営するValveのようにソフトウェアのデジタル配信プラットフォームを開発・運営することもできます。ソフトウェア開発はもちろんですが、株式による資金調達や競合他社の買収といった経営シミュレーションにはつきものの要素も用意されています。
2015年から9年もの長期にわたって早期アクセスが続いているゲームで、あとどれほどで正式リリースとなるのかは不明ですが、バランスなども含めて既にゲームとしては十分遊べる完成度となっています。本作は個人開発のゲームですが、現在でもほぼ毎月のようにアップデートが行われるほど活発に開発が進められています。
個人開発のゲームですが(あるいは個人開発のゲームだから?)非常に奥深く複雑なゲームシステムで、私としてはこれまでプレイした経営シミュレーションの中でもっとも優れたゲームであると感じています。記事執筆時点ではおよそ2,600円と安価(開発の進行に応じて徐々に値上げされています)でもありますし、経営シミュレーションを遊びたいという方は買って損はないでしょう。
なお、以下に掲載するゲーム中のスクリーンショットはすべて日本語翻訳Mod「Japanese_B1」を導入した環境のものです。
ゲームの内容
借りたガレージで依頼されたソフトウェアの開発を行う創業者(奥のPC席)。
本作ではゲームが設定する勝利条件のようなものはありませんが、うまく会社を経営して利益を出し、会社を大きくしていくというプレイをする方がほとんどでしょう。難易度にもよりますが、最初は自社開発のソフトウェアを開発するのが資金的に難しいため、賃貸のガレージで他社からの開発依頼を受けて資金を貯めるのが安全です。
8年後、自社ビルを持ち、さまざまな契約や取引を請け負って取り組んでいるところ。新規ソフトウェアの開発や既存の自社ソフトウェアの他OSへの移植なども行っています。
資金がある程度貯まって従業員を何人も雇えるようになると、一気に経営の自由度が高まります。社運を賭けて自社ソフトウェアを開発するのもいいでしょうし、さまざまな業務の依頼を引き受けて収入を増やし、さらなる経営の安定を図るのもいいでしょう。
ゲーム内の競合企業と、そのうちの1社の状況。現在プレイヤー企業(あなたの会社)はFoorSphere Interactiveの過半数の株式を保有しているため、さらに1,500万ドルほどを投じれば同社を買収できる状況です。
十分に会社が大きくなれば、既存事業のさらなる業容拡大を行ってもいいでしょうし、自社ビルを建設してもいいでしょう。競合他社を買収してそのIP(製品の知的財産権)を獲得したり、子会社化したりするのもいいでしょう。また、本作では製造装置をコンベアベルトでつなぐだけのごく簡単なシステムですが、家庭用ゲーム機やソフトウェアの物理パッケージなどの製造も行えます。
こうしたことを行うためには多額の資金が必要になりますが、経営シミュレーションゲームである本作にはもちろん、借入と株式公開(自社株式売却)という資金調達手段も用意されています。安定を求めて無借金経営・完全オーナー企業でやっていくのもひとつの手法ですが、収益を得る算段が立つなら借入や自社株式の売却で機動的に資金調達を行い、事業拡大を急ぐのも大切です(ただし、本作では借入がある状態では競合他社の株式を購入できないという謎ルールがあります)。
また、時代が進むと3D・ネットワーク技術や携帯電話などの新たな要素が登場しますし、時代が進むにつれて物理パッケージからデジタル販売にウェイトが移っていくというような変化があり、これに対応していく必要もあります。こうした変化をうまく利用し、例えば新たに3D技術がソフトウェア業界に登場したときに3D技術の特許を取りに行ったり、世界初の携帯電話を発売してブルーオーシャンに進出したりすることで、大きな利益を得ることもできるでしょう。
本作では他社からの業務依頼を利用すれば会社を潰さないように経営するのは簡単ですが、大きく儲けるならやはりリスクを取って新たなソフトウェアを開発したり、他社を買収してIPを取得したりして、製品をたくさん売るのが近道です。
製品の開発
本作で中核となるソフトウェア・ハードウェアの開発は、設計→開発(アルファ→ベータ)という順序で進み、同時に製品の発売に向けてマーケティング(宣伝)を行います。発売後はマーケティングのほかにサポートも行って製品のバグを確認し、必要に応じてバグ修正や製品の技術の更新(アップデート)を行っていきます。
ソフトウェア・ハードウェア開発開始時の設定画面。左側に製品の基礎情報、右側には製品の詳細な機能が表示されています。
まずどのような製品を、誰(どのチーム)が開発するかなどを決めます。上の画像では「Sound Master」というオーディオツールを開発することとし、その設計・開発を担当するチームや、「Sound Master」に持たせる機能を設定しています。
設計フェーズ
設定を終わらせて画像左下の「開発」ボタンを押すと、ゲーム画面右側のタスクキューに設計タスクが追加され、この製品の設計フェーズが始まります。デザイナーのいるチームを割り当てて時間を進めると、設計作業が進んでいきます。
「Sound Master」の設計タスク完了時。今回は最高品質にしたかったので、時間をかけてバージョン4まで完了させました。
設計は最大で4回まで自動で繰り返され、繰り返されるごとに「バージョン(iteration)」が上がっていきます。バージョンが上がると、このあと説明する開発(アルファ)フェーズでの製品のスコア(品質)が上がりやすくなり、同時にバグの発生率が低下していきます。しかしバージョンが上がるごとにそうした効果は低減していく反面、バージョンごとの設計に要する時間は長くなっていくため、適当なところで設計を切り上げて開発フェーズに移るのが合理的です。
発売前のマーケティング方法であるプレスリリース。実行するとマーケティングチームがプレスリリースの作成にとりかかり、それが完了すれば、プレスリリースを発表してフォロワーを獲得できます。
なお、開発する製品のマーケティングも設計フェーズから行います。本作の製品発売前のマーケティングは、最初に発売日を発表し、発売までの期間にプレスリリースやプレスビルドの公開を行って「フォロワー(発売時に購入してくれる可能性が高い人々)」を集めていくという形式で、この作業にはマーケティングの専門能力(サービスカテゴリー)を持つ従業員が必要です。
開発(アルファ・ベータ)フェーズ
設計フェーズの次の開発フェーズでは、まず前半のアルファフェーズで実際にプログラムやアートを作成して設計した機能を実装し、後半のベータフェーズでバグ修正を行います。
アルファフェーズ
「Sound Master」の開発タスク。アートは分量が少ないので既に作業が終わっていますが、プログラム(コード)はまだ17%しか進んでいません。
アルファフェーズでは、プログラマーやアーティストのいるチームを割り当てて時間を進めると開発作業が進んでいきます。上の画像左側のProgressでは、緑のバーがプログラムの進捗、赤がアートの進捗です。
アルファフェーズのタスクでは「レビュー」を行ってスコアを確認できます。自社開発のソフトウェアでは基本的にレビューは「外部委託」で行うため、レビュー費用がかかります。
レビュー結果。設計フェーズでバージョン4完了まで設計を行ったため、アートとコード両方でほぼ満点が取れています(現在の進捗での相対値。総合スコアは絶対値なので一致していない)。ただアートが9.8と点数が少し低いので、バージョン更新を行います。
「バージョン更新」を押すとアルファフェーズが一時停止され、バージョン更新作業が開始されます。
開発作業を進めて製品のスコア(品質)を高めていくのがアルファフェーズの目的です。アルファフェーズは「レビュー」を行って開発されている製品のスコアを確認でき、スコアが十分でない場合は「バージョン更新」ボタンを押して設計をやり直すことができます。ただ、ここでバージョン更新を行うことで上昇するスコアはそれほど大きなものではありませんし、バージョン更新を繰り返すことで1回あたりのスコア上昇量は低減していくため、高いスコアを狙うのであれば、設計フェーズでバージョンを上げておくことが重要です。
ベータフェーズ
ベータフェーズで行うバグ修正作業。最終的に何件のバグが出るかは事前にはわかりません。
アルファフェーズを終えてベータフェーズに移ると、製品のバグ修正が始まります。バグ修正が不十分だとスコアが低下したり、発売時に「バグが多い」と低い評価を付けられるため、バグ修正をしっかり行うことが重要です。しかしすべてのバグを修正し切ることはできないため、ここでも設計フェーズでバグが出にくいようにバージョンを上げてこれたかが問われることになります。なお、ベータフェーズではアーティストは不要で、プログラマーのみが仕事をします。
また、ベータフェーズの間には製品の物理パッケージの製造と配送を行えます。配送した後に修正したバグが事前に配送した製品では残ってしまいそうですが、本作では配送・販売した製品の状態を細かく記録しているわけではないようなので、そうした心配はしなくても大丈夫でしょう。
製品のリリースとリリース後
「Sound Master」リリース時の評価。会社の知名度が低く、マーケティングも不十分、さらには価格設定が高すぎると言われるなど、散々な評価です……。
ベータフェーズも終わればようやく製品をリリースできます。リリース時には市場による製品の評価が表示され、同時に発売後のマーケティングや製品の在庫発注量の設定を行います(後でいつでも変更可能)。
「Sound Master」のサポートタスク。アクティブユーザーが増えると対処すべき問い合わせが増えます。
リリース後にはユーザーサポートを行う必要があります。これにはサポートの専門能力(サービスカテゴリー)を持つ従業員が必要です。サポート業務ではユーザーからの問い合わせに対応し、一定期間内に対応できない場合は会社の評判が低下します。また、問い合わせへの対応の中で必要があればバグを報告し、報告されたバグはリリースした製品を更新する際に修正できます。
「Sound Master」は設計からリリースまで4年以上かかっていて使われている技術が古くなっていたため、バグ修正と同時に技術の更新も行っています。
リリースした製品で更新(アップデート)を行うことで、報告されたバグを修正できるほか、製品に使われている時代遅れになった技術を新たなものに更新し、製品の売れ行きを維持したり高めたりすることもできます。製品の更新にはアルファフェーズと同じくプログラマーやアーティストのいるチームが必要です。製品の更新時には、特に物理パッケージ販売が一般的な古い年代では更新プログラムのパッケージを製造・配送する必要がありそうに思えますが、本作では上で書いたように本作では販売した製品の状態を細かく記録しているわけではないようで、そうした作業はありません。
製品は発売直後に売上の大半が集中し、そのあとは売上が落ち着いていくという売れ方をするのが一般的です(後述するように、本作での製品の売れ行きは競合製品の状況などさまざまな要素が影響する複雑なものなので、そうならない場合もたくさんあります)。製品が売れなくなるとアクティブユーザー数が減少していき、その数が十分小さくなってサポートを打ち切ったとき、会社にとっての製品の寿命は終わります。
従業員
画像右側中段の「専門分野」に従業員の能力が、画像左上の顔画像右下に従業員の性格が、画像左側下段に従業員の満足度が、それぞれ表示されています。
ここまでの説明では従業員についてサラッと流してきましたが、本作では従業員の能力や性格、満足度についても気を配る必要があります。
従業員の能力はまずリーダー・デザイナー・プログラマー・アーティスト・サービスの5カテゴリーに分かれており、ここまで説明してきたさまざまな業務に対応します(リーダーはチームリーダーの役割に対応)。一人の従業員で複数のカテゴリーに熟練することもできますし、序盤の従業員が少ない局面ではそうならざるを得ないでしょうが、基本的にはひとつのカテゴリーに特化させていくのが効率的です。
従業員の性格(個性)は2つ設定され、この2つの組み合わせごとに他の性格との相性(Compatibility)が決められています。例えば、「外交的」で「寛大」ならたいていの性格の従業員とうまくやれますが、「内向的」で「人間嫌い(Misanthropist。Modでは「慈善家」と誤訳されています)」な人物は同じ「内向的」で「人間嫌い」以外の人とはうまくやっていけません。相性のいい従業員同士が同じチームにいれば作業効率は上昇しますが、相性の悪い従業員同士を同じチームに入れると従業員の満足度が低下し、従業員が退職してしまうこともあります。
従業員の満足度はチームメンバーとの相性だけでなく、作業環境(室温・騒音・照明など)や待遇(給料・福利厚生・休暇など)にも左右されます。満足度が高ければ作業効率も向上するため、できるだけ高い満足度を保てるようにしたいところです。
その他の要素
ここまでゲームの流れと従業員について見てきましたが、本作にはここまで触れてきたもの以外にも非常に多くの要素があり、すべてを説明するのは困難です。以下ではゲームを遊ぶ上で多くのプレイヤーが触れるであろう税務申告と株式取引について特に取り上げます。
税務申告
画像下段のTax reportにある進捗バーは毎年1月になると出現し、3月が終わるときまでにこのバーを満タンにできない場合、その上に書かれている費用(ここでは270,884ドル)を法人税とは別に支払うことになります。
まず、本作では毎年3月末(4月になるとき)までに前年の税務申告を行う必要があります。前年の業績が赤字の場合、法人税額は0ですが、その場合でも税務申告を行わないと業績の規模に応じた費用(罰金?)を取られます。税務申告には経理(Accounting)の専門能力(サービスカテゴリー)を持つ従業員が必要です。
法人税は収益から営業費用・減価償却費・投資損益・支払利息を足し引きして算出された当期純利益に一定の割合(難易度や会社の所在地で変動)を乗じて算定され、経理能力に長けた従業員がいれば節税を行って法人税額を減らすこともできます。
株式取引
ゲームに登場する競合企業以外への株式投資(画像上部)。値動きを予測することはできず、投資する意味はあまりありません。
競合他社の一覧と詳細画面(再掲画像)。こちらはその会社の業績に応じて株式価格が変動し、資産運用先として有用です。
会社業績のチャート(株価チャートはありません)。直近で急激に手許現金(銀行残高)を減らしているのがわかります。このまま行くと遠からず倒産してしまうでしょう。
本作には競合でない他社と競合他社への2つの株式投資システムがありますが、前者は値動きがおそらくランダムで、投資する意味はあまりありません。
実際に意味のある株式投資は競合他社に対するもので、こちらはその会社の業績、もっと言えばその会社のソフトウェア・ハードウェアの売れ行きに応じて株式の価格が変動するため、ゲーム中の情報からその会社の株式が上がりそうかどうかという目算を立てることができ、資産運用先として役に立ちます(ただ、同じような状況では同じように動くことが多いので、資産運用としては簡単すぎて難易度的に不満を感じることはあるかもしれません)。また、上で述べたように、会社の株式を集めて買収することもできます。
実際のプレイでは、できたばかりの会社(多くの場合ですぐに新製品を発売して業績が急拡大します)に投資するベンチャーキャピタル的な投資か、現金を急速に減らして倒産する見込みの高い会社に、倒産後にIPを回収する目的での投資が多いと思います。
プレイ感
記事冒頭で書いたように、個人的にはこれまでプレイした経営シミュレーションの中でもっとも優れたゲームであると感じています。ゲームでこれほど経営をしっかりできるものは他にないのではないかと思います。「本格的な経営シミュレーションゲームをやりたい」という方に真っ先におすすめしたいゲームです。
一方で、複雑なゲームシステムであるがゆえに、ゲームのルールを理解するのには時間がかかります。チュートリアルやヒントなど、ゲーム中で説明する努力はなされていますが、それでもプレイヤーとしてどうすればうまくやれるのかをつかむのは大変です。また、多くの要素が搭載されている一方で、ゲームの面白さにつながっていない要素も複数あります。
いいところ
全体的には、ソフトウェア会社経営をかなりそれらしくゲームにしているという印象を受けます。小さなところではチーム内の従業員同士の相性や業務に必要な能力を従業員が持っているかどうかから、大きなところでは何をやって儲けていくのか、そのための資金調達をどうするのかといった経営戦略まで、さまざまな点を考えさせてくれます。
また、そうした経営をそれらしくやらせてくれる基盤として、複雑で動的な製品市場があります。本作ではいいものを作るだけでは儲かりません。競合製品の動向、市場における認知度、ソフトウェアについては実際に市場を形成するOSの動向なども影響しますし、もちろん製品それ自体の質も大切です。利益を得るには必要とされるタイミングで必要とされる製品を投入する必要があります。
「経営してる」感と資金調達
財務シート。現金主義なので借入金はプラスに、在庫の積み上げはマイナスにカウントされます。89・90年は在庫を増やしているため、純利益はマイナスです。
経営シミュレーションゲームという面倒くさいゲームをわざわざ遊ぶプレイヤーは、多かれ少なかれ「経営してる」感を求めて経営シミュレーションを遊んでいるはずです。本作では経営上のさまざまな収益・費用を詳細な財務シートで確認でき、これを元に経営判断を行うことになります。また、上で書いたように税務申告も行うことになるので、例えば「今年は儲かっているから多めに設備投資してしまって(税額計算で減価償却という項目はありますが、償却期間は非常に短いようで、すぐに費用計上されます)税務上の利益を圧縮して法人税を減らそう」というような判断も行うことになるでしょう。
本作で利用できる2種類の借入。クイックローン(画像左)は最大100万ドル・5年間、銀行融資(画像右)は最大1000万ドル・20年間の借入が可能です。クイックローンは即時に資金を得られますが、銀行融資は経理能力のある従業員が必要です。
さらに、特に家庭用ゲーム機やソフトウェアの物理パッケージを自社で製造する場合、設備投資には多額の資金が必要ですし、製造を始めると在庫で資金が拘束され、在庫が売れるまでの間の資金繰りを考える必要も出てきます。3月末の法人税納税時になって「現金がない!」という場合もあります。本作では手許現金がマイナスの状態で1か月経過すると倒産してゲームオーバーとなるため、そういった場合にはお金を借りてくることになります。借入はクイックローンと銀行融資の2種類があり、前者は比較的少額を即時に借入でき、後者は多額の資金を長期にわたって得ることができます。これでも不足なら、制約が多く使いにくいですが、株式公開を行ってさらに資金を集めることも可能です。
一方で、当然ながら借入には利息を支払う必要がありますし、上限まで借りた上で資金繰りが悪化すれば黒字でも倒産してしまうため、利息も含めて本当に利益になるのか、その間の資金繰りに問題はないかを考える必要もあります。
このように、帳簿を見ながら経営戦略を考え、リスクとリターンを考えながら資金を調達して事業に投資するというのはまさに「経営」です。本作は経営シミュレーションゲームの中核である「経営」部分をしっかりやらせてくれるゲームであると言えるでしょう。
複雑・動的な製品市場
そうした経営面のゲームシステムがよくできていても、商売が単純で簡単なら面白い経営シミュレーションゲームにはならないでしょう。本作ではこの製品がどれほど売れるのかという市場システムが非常に優れていると感じています。他の経営シミュレーションゲームでは単純に製品のクオリティに応じて売れ行きが決まる静的なシステムで、製品のクオリティを上げるためにプレイヤーに知恵を絞らせるものが多いのではないかと思いますが、本作では製品の売上は多くの要素に左右される複雑なものとなっています。
発売時期
「Sound Master」の概要(画像左側)と競合製品である他社のオーディオツールとの売れ行きの比較(画像右側。ほとんど見えませんが白の棒グラフが当該製品)。品質は「素晴らしい」ですが、競合製品と比べてまったく売れていないことがわかります。
本作ではまず、製品の発売タイミングが極めて重要です。競合製品と同時に発売するより、他社の新製品の発売がない空白期間に発売したほうがよく売れます。せっかく素晴らしい製品を作ったとしても、同時にいくつも競合製品が発売されるタイミングで市場に投入してしまったら、商業的には奮わないまま陳腐化してしまうかもしれません。
上の画像では高品質なオーディオツールを発売したにもかかわらず、同時期に発売された他社製品に押されて市場ではほとんど存在感がないことがわかります。オーディオツール全体の販売本数が減っている時期に発売していれば、結果は違っていたかもしれません。
市場の認知
オーディオツール市場における当社の認知度。「Sound Master」が当社のオーディオツール市場における最初の製品なので、オーディオツール市場ではほぼ認知されていません。
製品カテゴリーにおける市場の認知度も重要です。本作では製品カテゴリー(オーディオツールやゲームなどの製品の大まかな種類)ごとに市場認知度という尺度があり、自社が製品カテゴリーごとの市場でどれほど認知されているかを示しています。製品を発売する際にはその製品カテゴリーの市場認知度に応じて売れ行きが変動します。
上の画像はひとつ前の画像の「Sound Master」というソフトウェアを発売した後のオーディオツール市場の認知度です。このソフトウェアはオーディオツールというカテゴリーで初めて発売したものであり、オーディオツール市場において自社はそもそも認知されていませんでした。「Sound Master」が売れなかったのはこれも一因でしょう。
対応するOS
アクティブユーザー数の多いOS上位2つと、それぞれのOS向けに発売されているオーディオツール。同じカテゴリーの製品(=競合製品)が少ないほうが当然売れ行きはよくなります。
これはソフトウェアに限ったことですが、製品として発売する際にはどのOSに対応させるかも大事なポイントです。アクティブユーザー数が非常に多い(≒市場として非常に大きい)OSだとしても、既にそのOSで例えばオーディオツールが数多く発売されていたら、そのOS向けに新たオーディオツールを発売しても既存の競合製品と市場を食い合ってしまい、それほど売れ行きはよくないかもしれません。一方、発売されたばかりでアクティブユーザー数が少ない(≒市場として小さい)OSでも、そのOSでまだオーディオツールが発売されていない場合、そこに自社のオーディオツールを投入できればそのOSの市場を独占できることになり、好調に売れていく可能性があります。
さらに、発売されたばかりのOSであればその後ユーザー数の増加が期待できますし、そのOSで新たにソフトウェアを発売することそれ自体がOSの人気を高め、OSのアクティブユーザー数の増加につながります。しかし、OSが人気になればそのOSのオーディオツール市場に競合他社が参入してくるのも間違いないでしょう。
製品の品質と創造性
最後に、本作でももちろん製品のクオリティは重要です。本作では機能の完成度を示す「品質」以外に「創造性」という指標があり、これには製品のリードデザイナー(設計開始時に設定)の創造性やスキルが反映されます。優れた製品の開発には単に時間をかけて品質を上げるだけでなく、創造性に富んだデザイナーを採用する必要もあるということです。
このように、製品の売れ行きにはゲーム内のさまざまな要素(上で書いたこと以外にもたくさんあります)が複雑に絡み合っており、ゲームの奥深さにつながっています。インターネット上では「いいものを作りさえすれば売れるというのはナイーブな考えだ」とよく言われますが、本作ではそれが実際にどういうことなのかを体験できます。必要とされるタイミングで必要とされる製品を市場に投入できるかが利益を得る上では重要ですが、「言うは易く、行うは難し」です。
自由なオフィス作り
自社ビル内の大部屋オフィス。海外ドラマによく出てくるガラス張りの上司の執務室を作ったりもできます。
ここまでの本筋から外れますが、本作ではオフィスをかなり自由に作ることができます。賃貸オフィスでは部屋や建物の構造を変えることはできませんが、自社ビルを持てばそれも自由です。他の経営シミュレーションゲームでも建物の設計や家具の配置の自由度は取り上げられることが多いですし、建物や室内を自由に設計したいと思う方は多いのではないでしょうか。
悪いところ
まずこの手のゲームにはありがちですが、複雑なゲームシステムであるがゆえに、ゲームのルールを理解するのが大変です。チュートリアルやヒントなどで説明はされますが、それほど詳しいものではなく、実際にプレイしてどういう感じなのかをつかむ必要がある部分も少なくありません。全体として、ゲームの複雑さに対してあまりにも説明不足であるように感じます。
つまらない要素
また、本作に非常に多くの要素があることはここまでお読みいただいておわかりだと思いますが、その一部は面白さにつながっていると感じられないものになってしまっています。
例えば、たまに強盗がやってくるのは面白さにそれほどつながっていないと私が感じる要素のひとつです。会社にはときおり強盗が侵入して会社の備品を奪っていくことがあり、プレイヤーはこれに対処するために保険に加入したり、防犯カメラを設置したり、警備員を雇用したりする必要があります。強盗が来るのは完全に悪い出来事であり、得るものはなにもありませんし、面白いイベントでもありません。不測の事態に備える経営要素ということなのかもしれませんが、対策してしまえば問題にもなりませんし、その対策もわかれば単純なものにすぎず、ゲームとして面白さにつながっている要素とは感じられませんでした(なお、強盗は難易度設定からオフにできる要素です)。
自社ビルで保険に加入していると毎年1月に火災検査が行われ、防火設備に不備があると罰金を支払うことになります。
もうひとつ、火災や自社ビルの火災検査もストレスが多く面白いと感じられない要素です。本作ではパソコンや製造装置などの状態が悪くなると火災になる場合があり(強盗と異なり、設定でオフにできない)、自社ビルを買って保険に加入すると部屋ごとに火災警報器やスプリンクラーの設置を義務付けられます。こうした設備は小さいこともあって自社ビル作成時に本当によく設置し忘れるもので、すごくストレスがあるというわけではないにせよ、快適で面白いプレイにつながっているとは言いがたい要素であるように感じます。
細かな点
金額を意味する場面と数量を意味する場面で、英語ではいずれも「Amount」となっており、ひとつのキーしか割り当てられていないために、日本語では数量を意味する場面で意味が通らなくなっています。
最後に、細かな点ですが、意味合いが異なる部分の表示に英単語が同じだからと同じキーが割り当てられているところがあり、これにより日本語翻訳で意味が通らなくなってしまっている部分があります。個人開発とのことなので、こういう細かな点まで気を配る余裕がないのかもしれません。
このように、気になる点としてさまざまな部分がありますが、それでもこうしたことが本作の魅力を大きく損なうものではありません。冒頭に書いたように、個人的にはこれまでプレイした経営シミュレーションの中でもっとも優れたゲームであると感じています。経営シミュレーションゲームを遊びたい方におすすめしたいゲームです。
個人的な好みを言えば、財務シートは簡単な複式簿記形式の財務諸表(損益計算書と貸借対照表だけでいいので……)になっているとありがたいのですが、そうすると初歩的な簿記の知識をプレイヤーに求めることになるので難しいという判断なのかもしれません。
いずれにせよ、本作が非常に奥深く面白い経営シミュレーションゲームであることは間違いありません。3,000円未満という低価格でもありますし、興味があるという方はぜひ試してみていただきたいなと思います。
コメント
財務関係がマニアックすぎるがそれも含めて気になるなぁ
記事中にもちょっと書きましたが、依頼をこなしていれば会社を維持するのは難しくないので、経営シミュレーションゲーム初心者の方でも楽しめると思いますし、腕に覚えのあるプレイヤーならうまく財務情報や資金調達手段を活用して急激に事業拡大することもできるような、いい感じのバランスになっているなと個人的には感じています。
セール時ならもちろん狙い目だと思いますし、経営シミュレーション好きなら定価で買っても満足できる方は多いんじゃないかなと思います(ズバリ私がそうでした)。
ソフトウェア開発の経営シミュといえば懐かしのゲーム発展途上国を思い出すな
あそこも元は個人製作でやってたし妙な共通性が
懐かしいですね。フリーゲーム版を遊んだのはもう20年くらい前なので細かくは覚えていませんが、本作でもやることはかなり近いと思います。
この手のゲームはsteamでかなり粗製濫造な上に説明文読んだだけじゃ玉石混交を見分けられないイメージだったので、キュレーションしてくれるのは助かる
確かに経営シミュレーションは出来がよくないものも多いですし、面白いものを探すのが難しいですね。他にもこの手のゲームでいいものがあれば紹介していきたいなと思います。
さっそく遊んでみました。
楽しいのですけど、人員や施設の管理が面倒くさくて、ダレてきますね。
実際に遊んでみていただいたようで、とてもうれしく思います。ありがとうございます。
人員や施設の管理は自分でいい管理方法を模索していかないといけませんし、人員については自動化機能がありますがすぐに使えるものではないので、確かに面倒に思う場面がありますね。
ゲームの良い点悪い点を詳しく説明してくれている良い記事だった。
以前に買ったけど記事の通り複雑で難しく、その割に説明がほとんどなかった。(かなり昔に買ったので今はより説明が充実している可能性はある。)
だから放置していたけど改めてゲームの良い点を振り返るとまた遊んでみようかなと思えました。
読みごたえがあった。
お褒めいただきありがとうございます。本記事でもう一度遊んでみようかなと思っていただけたなら、記事を書いた甲斐がありました。
今後は解説記事も書ければいいなと思っていますので、公開した際にはぜひそちらもご覧いただけましたらうれしいです。